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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十七話~(番外?Dead Data@第七話)

「報告は以上です、ロドクさん。大きな進展もないですけどもね…。」


大げさな溜息を吐きながら、かてないさかなはロドクへ背を向けた。

報告はこれで十分。自分が楽しむ為にも余分な情報は伝えるべきではない。

言わぬが花…。敢えて口に出さないで居た方が面白い。今の心境はまさにそれだった。

それなのに、それを妨害すべくあるコテが言葉を発する。


「あれー?おっかしいなぁー。ついこの前じゃん?君が言ったの。なんだっけ?
       あー、そうそう。“報告は正確に、行わないと”自分で言っておいてやらないのかなー?」


…死忘だった。

かてないさかなは普段殆ど表情を変えないが、この時ばかりは少々顔をしかめる。

以前の仕返しのつもりらしいが、今回の場合はこちらが面白がって邪魔をしたのとは訳が違う。

余計な報告をされてこの暇な街の中での私の楽しみを奪うというのならば…。

そんな事を考えながらかてないさかなは小さく舌打ちをし、

殺気を洩らしながら、いつもどおり微笑み、死忘へ向き直る。

当然、その笑顔は普段の愛想笑いや感情の伴わない物ではなく、威圧の笑顔である。


「…どういう意味でしょうか?私は出来得る限りの報告はしていますよ。
     情報をまとめて、必要最低限にする事も大事。それも怠らずに私はやったつもりですが?」


いつもとは違う反応に一瞬死忘はたじろぐ様子を見せるが、すぐに持ち直し、面白そうに笑いながら続ける。

その様子すら、かてないさかなは腹立たしく思う。

本当に空っぽの能天気な女ってのは面倒でしかない。などと心の中で毒づきながらも

死忘の言葉を途中で遮る事無く、最後まで聞いていた。


「“白いコテ”が銃器を装備したのはともかくさ。
   なんか妙な持ち方してたり、大爆発したりしてたよねー。あれは?何で報告しなかったの?」


やはり、自分がやった事へ対する仕返しか。ただ、芸が無い。

この私がまさか反撃を考えずに相手に攻撃をすると思っているのか?

彼女は、私が演じる道化をそのまま私だと思っているらしい。本当に足りない頭の女だ。


「必要ないと判断したから報告しなかった…ただそれだけですよ。
     能力の発現その物はロドクさんも予見していた事ですからね。」


「ですよね?」


…そう、この世界での能力発現はある程度当然の事だ。それこそロドクの書き換えに依る所が大きいが…。

ある程度のイレギュラーとは言え、“白いコテ”達だって例外ではない。この世界に居る間は、だが。

…ちなみに、かてないさかなが言う、“ロドクが予見していた”は、一度も言葉に出された事はない。

強いて言うなら“かてないさかなの考え”を“ロドクの手柄扱い”にする為のかてないさかなの計らいだった。

…つまり、それでかてないさかなは自分の窮地を脱する策を最初から練って居たのだ。…ある程度予測して。

尤も…実際ロドクはこのことを予見はしていた。ただ、一度も口に出す事は無かったのだが…

なので、予想外に自分の考えを見抜かれた事に少々驚いて居ただけで、かてないさかなの計らいは上手く機能しなかった。

…が、それすらも織り込み済みなのか、間髪入れずかてないさかなは言葉を付け足す。


「それよりも…死忘さん?」

「…何さ?」

「“白いコテ”は二人居ました。
 って事はこれ、以前始末した白いコテ…女性型ですっけ?そちらも生きてた事になりますねぇ」

「いっ…!や…そ、その…」


今度は死忘が青褪める。当然だ。前回“失敗はしていない”と必死に自己弁護した事が覆される事になるのだから。

ここでやっといつも通りの表情に戻ったかてないさかなは小さくクスクスと笑った。

そこへ、珍しくロドクが振り向き、ギロリと死忘を睨む。


「…“始末した筈のコテが生きていた”」


事実を確認する様に繰り返される言葉に死忘がビクッと肩を震わす。


「…それも、“二匹”。これは少し…問題だな、死忘。」

「い…ぁ、あ…そ、その…」


最早言い訳すら浮かばないらしく、死忘は口をパクパクさせるばかりで意味のある言葉を紡げずに居る。

そんな彼女を見て勝利を確信してか、ふっ、と小さく笑いを漏らすと、まさかのかてないさかなが弁護に回った。


「いえね、ロドクさん。これは彼女が仕損じたと言うよりは…
       相手が特殊過ぎる事が原因だと私は睨んでいます。」
 
「…特殊、か。」

「えぇ。えぇ。特殊です。そういう見た目のコテかと私も最初は思いましたけど…
    “虫”が効かない、能力は持つ、そして似た特徴のコテが複数居る…。
  それから考えても、ただの特徴的なコテでなく、何らかの要因であの見た目になった異常な存在の可能性があるかと?」

「そこら辺を細かく調査するには、彼女一人に任せるより他の方…
  複数人で攻撃を仕掛けてより正確に詳細にデータを取るべきではないでしょうかねぇ?」

「そういう理由もあって、私も“勝手な戦闘”はしないで居たし…まだ確実でない報告…能力の件を伏せてたんですよ」


弁護しつつ、かてないさかなは自分の行動が正当であったと思わせようと巧みに言葉を操る。

が、寧ろそれでロドクはそう言えばコイツも妙な動きをしていた、と思い出したらしく、かてないさかなを睨んだ。


「…他に向かわせる案は良さそうだ。糊塗霧や閃光騨に向かわせてみるとする。」

「奴らがどこに潜んでいるかは分からんが…あの二人ならまぁどうとでもやるだろう。」


ロドクはそう言うと今回ここに居ない二人を探す様にちらりと全体を見回すと、視線を戻し、しばし沈黙した。

その様子に何とか上手く行ったか、とかてないさかなと死忘が部屋を出ていこうとするその時、

付け足す様にロドクが再び背を向けたままで声を出す。


「報告は他に無いようだな。…1つ言い忘れた。お前ら二人はしばらく謹慎だ。」

「え?」「なっ」


二人が驚いた様子でロドクの方に向き直る。

だが、当然ロドクの態度は変わらない。そのまま会話を続ける。


「外での作業は全て他に頼む。お前らは少しの間外に出るのを禁ずる。以上だ」


ロドクに聞こえる事を気にしてか、かてないさかなは死忘を睨みつつ、小さく舌打ちした。

が、死忘の方はと言うと余程追い詰められていたのか少しうつむき気味でぼんやりしているだけで

かてないさかなに対して何かアクションする余裕は無さそうだった。

二人はトボトボとロドクの部屋を後にする。

その時、小さくロドクが独り言の様に呟いた。


「…元は一対のコテが何をしてるんだかな…。」












気持ちを洗い流すかの様に、頭からシャワーを浴びながら死忘は呆けていた。

失敗した…。危うく自分がやられる所だった…。藪蛇どころじゃない、大蛇が出た。

悔しいけど、かてないさかなにこういうのは基本効かなそうだ。寧ろ反撃でこっちが痛手を負う。

それにしても、何より悔しいのは最終的に自分はアイツに助けられた形になった事だ。

余計な事しなきゃ良かった。そんな後悔やら何やらで心中穏やかじゃない死忘は、

何をするでもなくただただシャワー室でボーッと湯を浴び続けていた。


ガンッ!!


「っ!」


突如、シャワー室の外、扉を叩かれる音が聞こえた為に、死忘は慌ててそちらを振り向く。

シルエットだけでも十分に分かる。あの珍妙なコテが外に居た。

彼は、わなわなと震えながら、小さく一言零す。


「…やってくれましたね?」


それを聞いて、自分がやった事は思った以上に効果があったのか、と思った死忘は努めて冷静に言葉を返す。


「何が?…って言うか、前回もだけどここ女性用なんだけど。いい加減にs」「私は!」


言葉の途中で被せる様にかてないさかなが声を荒らげる。

普段、怒りを露わにしないかてないさかなのストレートな怒りに怖気づき、死忘が黙る。

そもそも、かてないさかながそれはもう早口で喋るので言葉を挟めなかった所もあったが。


「私は貴女と違い、ただ面倒だとか自己の保身だとかで報告内容を調整した訳ではない!!
  それが分からない癖に子供染みた仕返しで面倒を増やしやがって…貴女の頭の悪さにはほとほとうんざりします。
  貴女には考える頭は無いのか?あったとしてまともに使えないのか?無い知恵絞って説明しなさいこの日陰女!!」


普段の飄々とした姿からは想像も付かない程の分かりやすい怒り。

まだ死忘の怯えは完全に払われては居なかったものの、何とか絞り出す様に死忘は反抗する。


「ど、どうあろうとおあいこだもんね!!言われる筋合いないよ別に!!」


その返答に、かてないさかなは大きく溜息を吐く。

これ以上何か言った所でこの女は殆ど理解は出来ないだろう。それ程相手が幼稚なのだ。

そうかてないさかなは言い聞かせ、場を立ち去ろうと背を向ける。


「謹慎なんだからおとなしくしてろよ!」


…その背に向かって非常に腹立たしい言葉が飛んでくるがどうでもいい、放っておこう。

それより今は現状に関して考えるのが先だ。どうすべきか…。

奴らの細かい情報が万が一今後の戦闘でロドクに伝わりでもしたら…対策を講じられてしまうじゃないか。

そうなると自分が考える計画は殆どが機能しない。ほんと無能な仲間ってのは一番害となるな…。


「覚えてなさいよ、このクソ女めが…」


ぽつりと呟いたかてないさかなは階下へ降りていった。

一方の死忘はと言うと、まだ怯えながらシャワー室に居た。

かてないさかなの気配が無くなったのを感じるまで微動だに出来なかったのだ。

そして、消えた所でありったけの小学生の様な暴言を撒き散らしたのち、

結局アイツ女性用シャワー室に普通に来る事に関しては聞こえないフリしやがったよ!

とか思いながらシャワー室を後にしたのだった…。













「案外、色々武器を揃えているんだな…。こっちのはどうしたんだ?」

「いやどれも一緒だよ。大体あの辺とかで拾った。まぁ、使えるかは別に集めてるから微妙なのもあるけど。」


そう言いながら彼女は私に妙な形の剣を渡す。

これは…所謂銃剣、バヨネット。その剣部分のみ。確かにこれだけだと今の我々では使い物にならないな。

なるべく近接の戦闘は避けたい所だし。

さて、我々はあの後、下水道…もとい、隠れ家へとまっすぐ戻って来ていた。

目的を達成する事は出来なかったが収穫はあった。一先ずその確認と…

まぁ、腹ごしらえだな。補給出来なかったのはまぁ痛いが、一応まだ食料や水は隠れ家にある。

それらで腹を満たすべく戻ってきたのだ。


「…と、すると…この辺のも例の喫茶やそこらで拾った物なんだな?」


そう言いつつ私は受け取った水や非常食の様な堅いビスケットを齧る。

他に物が無いから仕方が無いとは言え、安全なんだろうな?と言ったちょっとした不信感も込めての質問だ。


「んにゃ?今のは私と一緒に住んでた人の蓄えだからー…街が荒れる前の割とまともな食料だよ。」

「って言っても非常食系だからね…。たまには別の物欲しくもなるよ。…まぁそゆこと」


要するにこれらは拾い物じゃないが、拾い物もまま食べてるって事だろうな…。

この生活じゃぁ贅沢は言ってられないから仕方のない事だが、少々抵抗もあるな…。

今の所、他で拾った食料に私は手を付けていないがな。

ぐいっとペットボトルの水を飲み干し、その場に置く。

極限だからか、あるだけマシと私の身体も思ってるのか割とこれでも満たされた気持ちになる。

生きてるって素晴らしいな、うん。


「で、これからの行動はどうする?」

「行動か…」

「うん。予定は修行する?だったけどさ。…する程じゃないって分かっちゃったし。」


そう言いながら彼女は前回の私の銃の持ち方を真似しつつ、銃を撃つ真似をして来る。

まぁ…あの威力だからな。実際修行なんかは必要無さそうだな。よし。


「それじゃぁもう奴らを倒す方向でいくか。早速打って出るぞ!!」


そう言って立ち上がると彼女は慌てて止めに入った。


「いや確かに修行はもういいかも?とは言ったけど!それは幾ら何でも気が早すぎない!?」

「しかし…のんびりしてる訳にもいかないだろう?相手が何をしてくるかも分からない。」

「それでも戦力は私と君だけ。それでそんな焦っても結果は良い方向には行かないと思うけど…」

「これ以上戦力が増えるとも思えんしな。ならもう、答えは1つ!」

「いやいや、相手の力も未だ見極めてないし…ウィルスだってあるんだよあっち?待って!ねぇ!」


いつまでもループしそうな会話に私は痺れを切らし、会話の途中、再び立ち上がって入り口に向かっていた。

それを必死に止めようと彼女は追い縋ってくるが…

正直、彼女は過去の仲間の死で少々慎重になりすぎている面もあると思う。

どの道やれる事は少ないのだから、すぐ前に進んでいけばいいだろうに…じれったい。

そう思ってつい、私は彼女を乱暴に振り払って無理矢理隠れ家を出ようとした。

結果、彼女は転んで、尻餅をついてしまった。…しまった。


「お、おい大丈夫か…。」


少しの間。

そしてその後に…。彼女の足払いが決まり、私はひっくり返って思い切り頭を打ち付けた。


「ぐっ!?」

「うわやっべ、やりすぎた…だ、大丈夫?」

「……何してんだボケコラァアアアアア!!!」


瞬間、私は突如爆発する様に怒りをぶちまけていた。


「うわっ!え、え?君そう言うキャラだったの?怖っ!!」

「怖っ!じゃ、ねぇよゴラァ!!まず謝罪だろうがぁテメェぁあん!?」

「ごごご、ごめん!いや、でも先にそっちが…」

「被害俺の方がでけぇだろうがぁ!!」

「ご、ごめんって!治すから!治すからそんな怒らないでよ!!」


…そう言われてふと我に返る。

何なんだ今のは?普段の私とは似ても似つかない様なキャラだったぞ。

…キャラ、か。そう言えば私の元のキャラとは一体どんな物なんだ?

便宜上こう言った口調、性格で留めて普段生活をしては居るが…そもそもそれが全くしっくり来ない。

今の荒い口調…。咄嗟に出た訳だが、凄くしっくり来ていた。

もしや、本来の私のキャラ、人格はああいう荒々しい物だったのか?

気づけば怒りもそっちのけで私は考え込んで居た。それを見て、彼女はオロオロしている。


「え?え?ど、どうしたの?きゅ、急に黙られるのも結構怖いんだけど…えと…本当ごめん…ね?」


だが、今は自分の事を考えるのに精一杯で私は返事が出来ないでいた。

…そう言えば最近、少しずつ“自分らしさ”を取り戻している気がするのだ。

例えば先程、事を急ごうとしていた事。これも以前ここに来たばかりでは見られなかった行動だ。

強引に周りの反対を押し切ってまで何かやる様な事も無かった。

やはり、私の本来はああいうキャラクター…?そして、例の能力を切っ掛けに少しずつそれが思い出されている…。

つまりは、少しずつ記憶が戻ろうとしている…?

…こう言う時に、すぐ何か調べる事が出来る物があれば助かるんだがな。

そう思いながらふと、未だオロオロする彼女の後ろ…部屋の隅の大型のパソコンが目に入った。


「…なぁ。」

「あ、はい!?」

「…いや、そうびくびくしないでくれ…もう平気だ。そのパソコン…それは使えるのか?」


そう言って私はパソコンを指差すと彼女は腕組しながら神妙な表情を浮かべてそうな雰囲気で答える。


「うーん…基本的な機能位は使えるんじゃない?ネットとかExcelとかペイントソフトとか」

「後者の奴はいらん。そうか、回線は生きてるのか…なら…」


早速、パソコンの電源を入れる。

ネットである程度情報収集が可能かもしれないし、そもそもこのパソコンの元々の持ち主は

この世界やこの世界に住まう者達に詳しく、亡くなるまである程度情報を集め続けていた。

それならもしかすると、私の元のコテの情報何かも何らか保存されているかもしれない。


「…何探してんの」


徐ろに彼女が隣にやって来て画面を覗き込む。

…そう言えば彼女はこの中身を確認したりしたのだろうか?


「…このパソコンの本来の持ち主は敵の情報やこの世界の事を調べていたんだろう?
  それらの情報が残っていたり、それらの情報を収集した形跡があればそれがヒントにならないかと思ってな」

「うーん?あー、そう言えばあるかもね」


…この様子はこいつ、恐らく全く触ったりしてないな。

まぁ、無理もないか。そもそも亡くなったコテの形見に近い物だ。

触っていてそのコテを思い出したり辛い事もあろう。

…いや、そういう奴には見えんな。今普通に一緒に見てるし。単に面倒臭かったなコイツ?

ともあれ、私はどうやらパソコンを多少いじる程度なら心得があったらしいので確認していく。

そうはいっても、隠しフォルダやらクラウドやらは良く分からんからそこらに保存されていたら手に負えないんだがな。


「…と、んん?なんだこれは。」

「え?どれ?」


なんて思っているとそれは案外簡単に見つかった。

幾つかのフォルダの奥に隠された余り聞いた事のない形式の圧縮されたファイル。

ファイル名は“バックアップデータ”…何のバックアップだろうか?

何かしらないか、と彼女の反応を待って見たが…


「あぁ…これ知ってる。開けないよ。」

「って言うと?」

「パスワード掛かってる。前に心が作ってる所は見たけど…パスは教えてくれなかったんだよねー」


シン…?それが亡くなったコテの名前だろうか?

とにかく、そいつが何かに備えて作ったファイルなんだろうが…

とりあえず、確認のためクリックしてみる。が、確かにパスワードを要求され、普通には開けない様だ。

確かにこれは開けそうにないな。流石に私にそう言った心得は無いみたいだし。


「大した収穫はなし、か…」


一応、同じフォルダ内に五行に関する情報や、敵の大まかな情報のまとめなんかは出てきたが…

正直私達自身が知ってる程度の情報までしか入ってなかった。

そもそも殆ど篭ってた様な事を言ってたし、そこまで敵に迫る情報を持ってる筈も無いよな…。

そう思い、今度はネットを開く。すると…。


「…ん?これは…」


開かれたのはチャット画面だった。


「…あぁ、これこの世界の元になってるサイトだよ。ここを見本にこの世界は作られたんだ」


懐かしそうに彼女はその画面を見つめている。

…?彼女はこの街がこうなる前の状態を知らない筈だよな。

なら、何故この街の元になるこのチャットを懐かしんでいるんだ?

気になったら尋ねる。そうして、彼女も不思議そうな顔をしていた。


「あれ、そう…だよね…?もしかして私、元々ここの住人…?」

「…かも知れないな。所で、他にこのチャットに関して知ってる事は無いか?」

「…大体あの人に聞いた程度で良いなら…」


そう言いながら彼女はチャットへ名前を入力してログインを試みる。

すると、画面は緑色になったままで止まり、それ以降切り替わらなかった。


「未だに…このチャットとこの世界ってある程度繋がりがあるらしくて…」

「…なるほどな。外から見るとこの街は現状こう…」

ログインできない
「侵入不可能状態って事か…。」

「うん。…それでも入ってくる人もたまには居るけど…まぁ、大抵はすぐ始末されちゃうね」


ウィルスを使っての介入と改造。そうしてこの状態。酷いもんだな。迷惑極まりない。

やはり、早い所どうにかしたいものだ…。自分の記憶探しもおちおちできそうに無いしな、このままだと。


「…ん?」


ふと、チャットの名前入力欄の端に数字が書いてあるのが目に入る。

それについて尋ねると、これはこのチャットの“参加人数”らしい。


「この世界とチャットはつながっている…って事は今、ここには50人も居るのか?」


今街に居るのは奴らと、私達二人だけの筈だ。

だが、この数字の通りだとするなら…他にもコテがどこかに隠れている可能性もある。

もしくは…。


「あー…いや。それ殆どずっと50から動いてないよ。だから多分関係ないんじゃない?」

「…全く変化無いのか?」


少しは希望が見いだせるかと思っただけに諦めきれず食い下がる。

すると思い当たる部分があったのか彼女はそう言えば…と言葉を付け足す。


「君がここに来た時に数字は変化無かったけど…ヤキムシとか倒すと、そう言えば数字減ってたかも」

「…と言う事は我々はカウントされていない…そして、奴らは50人程居るって事か…」

「そうなるね…。」


まさに我々がイレギュラーである事を示す情報だ。

だが、それ以上に戦力差の余りの大きさに私は愕然とする。

これだけの差があっては彼女でなくても戦闘するのは尻込みするだろう。


「…って、お前このパソコン触れた事無いんじゃないのか?」

「いや?ある程度は見たけど?分かるとこだけ。てかそんな事言ったっけ?」

「…だな」


少しだけ、もしかして本当は彼女は奴らに何か関わりがあって、それを隠してるんじゃないかとも考えていた。

だからふとした時にちょくちょく突っ込んでいたんだが殆ど見当違いで勝手な決めつけだった様だ…。

なんともただただ恥ずかしい。ので、さっさと話題を切り替えていく事にする。


「50人常に居る状態に保たれているって事だよな、数字が常に同じって事は」

「あ、そうだね。毎回補充してるんだ。でも、それなら何で50で止めるんだろ?」

「それ以上増やせないって事じゃないか?ウィルスを使えばある程度改変出来るだろうにしないんだから」

「なるほどね…。」

「無闇に減らしても、増やす手段を断たない限りは無駄になる。そこさえ抑えれば有利に事を運べるかも知れない」

「だねぇ。」

「よし!!」


そこまで言った所で、再び私は立ち上がり、外を目指して走り出す。

当然、彼女はそんな私を止めに入った。


「いやだからぁ!焦って行くなって言ってるじゃん!!」

「大丈夫だ、今度は武器をしっかり持ったぞ!銃も剣もだ!」

「いつの間に!?いや、でもそういう事じゃなくて!少しずつ慎重に事を進めていかないとさぁ!」

「ならば探索だ!探索に行ってくるぞ!それじゃぁな!!」


結局私は彼女の忠告を全て聞き流し、彼女を振り切って下水道を出て行った。

…果たして、この選択は正しかったのか誤っていたのか。

後の私ですら正直なんとも言い難いが、出て行ってしまったんだ。


つづく。


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